その国で出会った人、起こった出来事は人それぞれで全く違うと思うが、僕が最初に抱いた印象はまさに「最悪」という言葉が相応しいかった。
おいおいマジかよ。
まだ着いて数時間しか経ってないよ!?!?
ここはエチオピアの首都アディスアベバ。
この地に降り立った2時間後に速攻でスマホを盗まれ、ATMではクレジットカードも飲み込まれた。
序盤からアフリカ大陸のモーレツな洗礼を受けまくっていた。
でもこんな経験は世界一周の旅に出て7ヶ月が経とうとする中で初めての事だった。
それまでは計画通りにルートを決め、防犯対策もしっかりとして予算通りに上手く旅を進めていた。
少し気を抜いただけでこんなにも災難がふるもんかね?
ただエチオピアで受けたショックはこんなものではない。
まずメインの食べ物は黄ばんだ雑巾だし、物価も高いし、詐欺師とスリが多くてアジア人は人種差別もされる。
バスの運賃は当然のように2回以上請求されて、舗装されていない道を平気でかっ飛ばすからバスの車体が何度も空を飛ぶ。
おまけに空飛ぶバスの座席の下で寝る夫婦もいる。
もう訳わかんねーよ。
立て続けにカルチャーショック体験が襲いかかる中で「エチオピア怖いエチオピア怖いエチオピア怖い」
と国全体で僕を無気力かつポンコツな人間にしてしまった。
そんな個人的主観で最悪の要素が豊富に詰まった国だが、徐々にエチオピアでの日常生活に溶けこむ中で一番思い出に深い国となった。
プロフィール写真にもなっている「ダナキル砂漠のダロル火山」は今までに見たことのない別の惑星に来たかのようなすごい景色が広がっていた。
そして人生で見た景色の中で最も心に残って感動したエルタ・アレ火山の溶岩湖も凄まじかった。
そこは活火山で実際にマグマが光り輝きながらうねりをあげている場所でまるで地球が誕生する瞬間を目撃できる。
星空を暗闇が覆う闇の中で激しくうねるマグマの熱と硫黄の匂いをたっぷり詰めた火山ガスを全身に浴びながら、ただただその絶景を目に焼き付けていた。
エチオピアには有名な民族がたくさんいる。
下唇に円形の陶器をはめてあえて自分を不細工に整形する文化のあるムルシ族。
彼らの生活は独特で基本男は家族と一緒に生活しない。
女と子供だけで村を作り男はその村の外で警備しながら外敵から守り、子供を作るときだけ村に入る。
この民族は有名になりすぎたせいで積極的にお金を儲けようとしてくる。
一緒に写真を1枚に撮る毎に1ブル(日本円で25円)を請求してくる。
彼らも写真に撮ってもらおうと必死で色んな衣服に着替えたり、ポーズを変えて写真を撮れと言ってくる。
そこがまた可愛らしかった。
数々のきつい洗礼や刺激的な体験はどれも強烈なものだったが、それ以上にこの国には魅力がたくさん詰まっていると感じた。
当時はもう二度と行くことはないだろうと思っていたけど、強烈な刺激を求めてまた足を運ぶ日が来るかも知れない。
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